01. My favorite things
02. At last
03. The look of love
04. From this moment on
05. It's all right with me
06. Cry me a river
07. Shiny stockings
08. How high the moon
09. Someone to watch over me
10. Speak low
11. Bei mir bist du schon
12. What a wonderful world








「This time」- ”鳥のように自由であれ、大地のように壮大であれ” 

■三好由美という存在感
「私にないものを持っている」キャリアの長いベテランシンガーの中には三好由美のことをそんな風に絶賛する人もいる。彼女の魅力は何なのだろうか。本作で初めて三好由美に出会った人は、まず一曲目を聴くとその答えがわかるはずだ。オープニングを飾るのは「my favorite things」。有名な映画<サウンド・オブ・ミュージック>の中の一曲である。おなじみの曲のはずなのに、鳴り始めた瞬間、別の曲かと耳を疑う人もいるかもしれない。雷の音に怯える子供たちに向かって「大丈夫よ、あなたの好きなものを思い浮かべてごらん」と鎮める彼女の歌声は、すべてを超越したような強さと平安を感じる。そう、例えるならまるで「大地」のような絶対的な存在感、それが彼女の魅力なのだ。そう伝えると当の本人は笑ってこう言った。「毎日のように山に登ってるからね」。三好の趣味は山登りである。日課のように山に行くのも、大地からエネルギーを得て歌への力に変えているのかもしれない。

■表現したいのはジャンルを超えた奔放さ
三好由美がJAZZに転向したのは2008年。それ以前はポップスやR&Bをはじめ、さまざまな曲を歌ってきた。幅広いジャンルと触れ合っていたからこそ、”JAZZはこうあるべき”というこだわりはなかった。「このアルバムは好きにやろう」今回参加するメンバーにもあらかじめそう伝えていた。とにかくハジけたかったのだ。遠藤征志氏(Pf)をはじめとしたメンバーたちは彼女の言葉通り、まさに「自由すぎる」アレンジを作り出してきた。自由にやろうとは言ったものの、彼らが生みだした曲を歌いこなし、自分のものにするには困難を極めた。皆の「こうしたい!」という想いを作品にするには生半可な覚悟ではいけないのだと、三好は実感する。そうして2014年4月。メンバーが福井に集結した。いよいよかたちにする時がきたのだ。

■声と引き換えに誕生した一曲
曲の解釈に苦悩し、壁にぶつかりながら臨んだレコーディングは長期間に及んだ。三好はもちろん、遠藤氏や長谷川泰弘氏(Bs)、中屋啓之氏(Dr)それぞれが最高のプレイをし、力を出し尽くした。そんな終盤に録音されたのがアルバムのラストを飾る「この素晴らしき世界」である。この曲は、三好が満身創痍の中、残りの力を振り絞って歌ったもの。録音の状態や三好の喉の調子を考えると、改めて録り直すという選択肢もあったかもしれない。しかし、こみ上げてくるさまざまな思いを表現した歌声と、それに呼応するかのようにして奏でられたピアノの音色はすべてが奇跡的に重なり合い、特別な瞬間となった。この演奏は再現できないだろう。プロデューサーの強い意向により、そのまま本作に収録されることになった。この曲の録音直後から、三好はしばらくの間声が出なくなってしまう。まさに、歌声と引き換えに誕生した曲として、彼女の中でも一番思い入れの強い曲となっている。

■それはまるで舞台
もしかすると、このアルバムを聴くことでJAZZの概念が変わってしまう人もいるかもしれない。それが全12曲すべてを聴いた私の感想である。彼女にとってこのアルバムで表現したい世界観は、「JAZZ」という音楽の一ジャンルではなく、”時を切り取る舞台”、まさに「This time」なのだ。すさまじい嵐の時間、恋に落ちる瞬間、夜な夜なパーティーに明け暮れる時間、世界が生まれ変わった瞬間など、舞台はめまぐるしく変わっていき、三好由美の喜怒哀楽や可能性が余すところなく表現されている。レコーディング後、三好は出なくなった声を元に戻そうとリハビリに励んでいた期間に、これまでの発声方法などすべてを変えたという。”変わっていくことに迷いはないの。私が成長すれば歌も成長する。その変化を楽しんでほしい” 彼女は今まさに翼を広げて飛び立ったばかり。これからどこに向かっていくのか、それは彼女自身にもわからない。鳥のように自由であれ、大地のように壮大であれ。三好由美の内から湧き上がるパワーを、一人でも多くの人に感じてもらいたい。

(Ai Ishihara)






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